第7章 Zapatillas(及川徹)
「はーい、洋服はこれでけってーい」
及川は鼻歌を歌いながら鏡の前で一回転してみせた。センスのある小綺麗な衣服に身を包んでいる。確かに、先程までの寝間着姿よりはよっぽど魅力的だ。
「じゃあ…」
「次は髪の毛のセットに入りまーす!」
「最悪…」
なまえは諦めてベッドに倒れこんだ。及川の匂いのする布団が身体を包む。
ねぇ、及川。そんなにお洒落する必要ってあるわけ?
なまえは布団を抱きしめながら、ワックスをつけている及川の背中を見つめた。
どうせ外でも、私の機嫌よりショーウィンドウに映る自分のヘアスタイルのほうを気にするんでしょう。
私の見ていないところで、すれ違う女の子と目を合わせて笑ってみせるんでしょう。
そんなことされても、嬉しくないよ。
なまえはもぞもぞと掛け布団の中に潜った。及川はそれにも気づく様子はなく、楽しそうに準備を整えている。
大きく息を吸う。
及川へのムカムカとする気持ちを、彼のにおいで落ち着かせる。なんだか変な話だ。
そのうち、だんだん考えるのも面倒になってしまって、早起きも相まって、いつの間にかなまえは眠ってしまった。