第6章 十六歳、臍を噛む(孤爪研磨)
「もー、だらしないんだから」なまえは声を殺して笑った。「クロもクロで、寝癖直さないまま学校来るしさ」
研磨がピクリと動いた。寄りかかっていた上体を起こして、なまえを正面からじっと見つめてくる。
「…何?」
日中も同じようなことがあった。ざわざわと心が揺れた。
「ねぇなまえ、昼間の話ってほんと?」
研磨の黄色がかった瞳が、月明かりに照らされて暗闇の中で光っていた。
「なんの話?」
なまえは動揺を悟られたくなかった。
「クロの話」
クロ?
なまえはピンと来なかった。「時々、部屋に遊びに来るよ」
「…」
「別に普通でしょ、幼馴染なんだから」
「ふつう、か」
研磨は手を伸ばして、先ほどと同じようになまえの髪をかきあげた。細い指先で耳をなぞられて、思わず息を飲んだ。ひんやりとした手はそのままなまえの頬を撫でて、親指の腹で唇をなぞった。そんなつもりはないのに、身体がぴくん、と跳ねる。
「研磨?」
なまえの震える声も無視して、研磨はなまえの首筋に唇を寄せた。背中がぞくぞくと粟立つ。
「研磨、何してるの」
「別に普通でしょ、」研磨はなまえの耳元で同じ言葉を返した。「幼馴染なんだから」
いつのまにか彼の身体が密着している。左手は後頭部を、右手は背中を抑えられて、逃げられなくなってしまった。
「ねぇ、なまえの中ではどこまでが許容範囲なのかな」
熱い舌が耳を這った。驚いて抵抗するたびに、バランスが崩れて身体がずり落ちていく。
「やだ、やめて」
「やめない」
「けん…」
「クロとはこんなことするの?他の男の子とは?」
床に両肩を押し付けられた。研磨はなまえの上に馬乗りになって、手首を掴んだ。