第6章 十六歳、臍を噛む(孤爪研磨)
夜
電気を消した部屋で、なまえはベッドの布団にもぐっていて、研磨は部屋の隅でじっとしていた。真っ暗な部屋の中で、スマホの青白い光だけが煌々と輝いている。
「研磨、スマホまぶしい」
なまえが注意すると、無言で明かりが消えた。とても静かな夜だ。
落ち着かなくて、布団の隙間から様子を伺うと、研磨は体育座りの格好で、小さくなって俯いていた。雨の中、軒下で縮こまっていた、幼い頃の研磨の姿が重なる。
なまえはベッドから降りた。研磨の隣へ行って腰をおろすと、「…寝ないの?」と聞かれた。
「寝れるわけないじゃん、ばか」
「ごめん」
「いいよ、たまには」
研磨がなまえに寄りかかってきた。その頭に自分も頭を乗せる。小さい頃は恥ずかしがり屋で、とっても甘えん坊だったけれど、背が伸びてもそれは変わらないらしい。
「研磨のお母さん、心配してないかな」
「大丈夫。友達の家に泊まるってメール送っといたから」
「そっか。研磨は昔から黙ってどっかいっちゃう子だったもんね。慣れてるか」
ふふっ、と笑って、先ほど思い出した記憶を掘り起こし始めた。「ねえ研磨覚えてる?
あんたが小学校1年生の時、猫を追いかけて迷子になっちゃった時があったよね。」
研磨は覚えているだろうか。何も返事が帰ってこなかった。
「みんなで探しまわって、途中から雨が降ってきちゃってさ。散々探しまわって見つかった時、あんた空き家の軒下で体育座りで泣いてたんだ」
懐かしい記憶だった。
「なまえは、いつまで俺のこと弟扱いするの」
研磨が拗ねた声を出した。
「ずーっとじゃないかな。昔から泣き虫で、喧嘩だって私のほうが強かったよね」
「昔の話でしょ」
「そうね、昔の話」
なまえは目を閉じて研磨の頭を優しく撫でた。
「さらさらしてるね。髪の毛染めてるのに、全然傷んでなくて、羨ましい」
「なまえの髪も柔らかいよ」研磨もなまえの耳の横の髪の毛をかきあげた。「シャンプーのにおいがする」
「ありがとう…でも研磨、いい加減プリン染めなおしたら?前髪も切ってさ」
「やだよ、行きたくない」
研磨は子供のようにいやいや、と首を振った。