第6章 十六歳、臍を噛む(孤爪研磨)
「…」
なまえは時計を見た。沈黙が続いて3時間が経過している。
あれから、研磨はずっとゲームをしている。たまに、思い出したかのように体勢を変えたかと思うと、スマホをいじりだして、しばらくしたらまたゲームを再開。この流れを繰り返していた。
なまえは気まずさと手持ち無沙汰に耐えられず、自主的に休んでいたはずの勉強に取り組んでいた。しかし、これも長く持つわけがない。
「ねぇ、研磨。あんた、何時頃帰るの?」
研磨はゲーム機から顔を上げて、考えこむように上を見た。
「…明日のお昼、かな」
「明日?ってことは、今日ウチに泊まるの?」
「うん…」
「…」
「ダメ?」
またあの目だ。なまえはため息をついた。
「ダメじゃないよ。ただ、そういうことは一番最初に言っておくべきことよ」
「ごめん」研磨はまたゲーム機に視線を戻しかけたが、あ、と呟いて顔を上げた。「俺が来てること、なまえの家族にも言わないでね。連れ戻されちゃうから」
「えぇ〜」なまえは頭を抱えた。「晩御飯とかどうするの?お風呂とか」
「別に、平気」
「平気って…もしかして、飲まず食わずで私の部屋にいるつもり?」
「うん、寝るときも、床でいいから」
「もー、しょうがないなぁ」なまえは机の引き出しを開けた。買いだめておいたスナック菓子が入っている。「これ、食べて、今飲み物持ってくるから」
研磨は手渡された袋を見つめながら、「だから太るんだよ」と言った。痛いところを突かれて「う、うるっさいわねー」と言い返す。
「そういうこと言う子にはお菓子あげないわよ!」
「別に、くれないならいいけど」
「ダメよ、なんでもいいから食べなきゃダメ」
そう言ってなまえは飲み物を取りに部屋の外へ出て行った。
「どっちなの…」
残された声は静寂に吸い込まれた。
研磨は目を閉じて深呼吸をした。部屋のにおいが変わった、と自分で言ったものの、もう慣れてしまってわからなくなってしまった。
女の子のにおいだったな。
ゆっくりと目を開けた。いつからなまえはあんな香りになったのだろう。
なまえは、クロもこの変化に気づいたと言っていたけれど、本当なのだろうか。
「...なんか、やだな」
カーテンの隙間から差し込む西日の中で、研磨は呟いた。