第6章 十六歳、臍を噛む(孤爪研磨)
朝、研磨が起きた時、すでに孤爪家は親戚の到着で賑わっていた。苦手なお節介焼きの伯父さん、 伯母さんだけではなく、今年は遠方から馴染みのない親戚たちまで揃っていた。そして、たくさんの子供たちも。
研磨は子どもたちの中で最年長ということもあり、すぐに遊ぼう、遊ぼうと囲まれてしまったらしい。困った研磨は、相手をしてあげなさい、という母親の声を無視して、自宅からそそくさと逃げてきた。真っ先にクロの家に向かったけれど、昨日から母方の実家へ帰省しているらしく、誰もいなかったのでしょうがなくなまえの家へやってきた。
というわけだ。
「あんたさ、」なまえは呆れながら窓を閉めてレースのカーテンをひいた。「もう高校生なんだから、いい加減人見知り克服したら」
研磨は俯いた。
その正面に立って、また背が伸びたな、と思った。
昔は泣きながら私の後ろをくっついて歩いてたのに、今は私を見下ろしてる。
黙っているなまえを怒っていると勘違いしたのか、研磨は猫背になって顔を覗き込んできた。
「ダメ、かな」
うっ、と言葉に詰まる。その困ったような、甘えるような目は、昔からの研磨の必殺技だ。本人は自覚がないらしいが、その瞳で見つめられたら、どんな頼みでも断れない。
「あーもうわかったわよ」なまえは両手を上げて降参のポーズをとった。「好きにすればいいんじゃない。」
研磨は安堵の表情を見せた。ありがとう、と小さく言って床においてあるテーブルの前に座った。キョロキョロと落ち着かない素振りで周りを見回している。
「どうかした?」
研磨はベッドの上のファッション雑誌に視線を送りながら、いや、と答えた。「なまえの部屋、だいぶ雰囲気が変わったね」
「そうかな、しょっちゅう遊びに来てたじゃない」
「なんか、匂いが変わった」
「あー、クロもそんなこと言ってたかも」
なんとなく口にした言葉に、ぴくり、と反応して、じっとなまえを見つめてきた。
「な、何よ」
「…別に」
不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いて、鞄から取り出したゲーム機をいじりはじめてしまった。
「変な子」
なまえはくすくす笑ってベッドの上の雑誌を拾うと、テーブルを挟んで研磨の向かいに座った。二人きりになるのはとても久しぶりだった。