第6章 十六歳、臍を噛む(孤爪研磨)
エアコンのきいた自室で、なまえはベッドに寝転がりながらファッション雑誌をめくっていた。
お盆期間中の今は塾はお休み、学校は閉鎖。ついでに家庭学習も自主的にお休みにして、高校生活最後の夏をのんびりと満喫していた。
上機嫌に鼻歌を歌っていたが、ふいにコンコン、と硬い音が聞こえて、顔を上げた。
なまえの部屋は1階にある。西向きに大きな窓がついているのだが、小6の時、着替えをしているところをたまたま通りがかった近所の幼馴染に見られて以来、日中でもレースのカーテンを閉めるようにしていた。
耳を澄ましていると、またコンコン、と聞こえた。どうやら部屋の外から、誰かが窓を叩いているようだ。頭の中に、犯人の顔が浮かぶ。こんな悪戯する奴は一人しかいない。
そろりそろりと窓の側へ移動して、勢い良くカーテンを開いた。が、目の前には誰もいなかった。代わりに、地面にしゃがみ込んでいたプリン色の髪の毛が、びくりと揺れた。
「あれ、研磨!?」
予想と違う犯人になまえは驚いて声を出した。この一つ年下の幼馴染、孤爪研磨は、何を隠そうレースのカーテンを取り付けることとなった原因となる人物である。あの事件以来、研磨はこの窓には寄り付かなくなり、ここから出入りするのはもう1人の幼馴染である黒尾鉄朗だけになっていた。
ガラス越しに研磨が不安そうにこちらを見上げている。窓を開けると、セミの声と一緒に、蒸し暑い空気がまとわりついてきた。
「どした、研磨」
「なまえ、たすけて」研磨はしゃがんだまま、周りを伺いつつ小さな声を出した。「かくまって」
「どうしたの」
状況が飲み込めないなまえを他所に研磨は肩に掛けていた鞄をなまえの部屋の中へ投げ入れた。部活用の大きな鞄はドサリ、と重い音をたてて転がる。
「今、うちに親戚が集まってるんだ」
研磨はそう言いながら裸足を窓の縁に掛けて中へ入った。そのあとに、窓の外へ身を乗り出して、脱いだサンダルを回収する。
「そりゃあ、お盆だもの。親戚くらい集まるでしょ」
「そうなんだけど、」
研磨はもどかしそうに視線を走らせていたが、やがてゆっくりとワケを話しはじめた。