第50章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)後編
「夜の海は怖いし冷たいもんね。今度さ、一度山に下見に行こうよ。富士山とか行っちゃう?あ、だったら車の免許もとらなきゃね。もちろん高校卒業した後だけど。一緒に免許合宿行こうよ。鳥取とか、新潟とか、ちょっと田舎の温泉地に行こう。それからーーーーー」
くしゅっ、と自分の口からくしゃみが出た。
お喋りを止めた及川徹は、ワァ、タイヘン!とわざとらしく驚いてみせた。「びしょ濡れのままじゃ、風邪引いちゃう!」
どうしようかなぁ、着替えも捨てちゃったしなぁ、と立ち上がった彼は、あっ!あんなとこに!!と海とは反対側の、道路の向こうにぽつんと建つ建物を指差した。
「あんなとこにちょうど民宿がある!しょうがない、今夜はそこに泊まりましょう!」
そう言って、私の腕を取って立ち上がらせた。「さぁ!今夜が初夜です!」
「え、ちょっと、待ってください。私、そんなお金持ってないです」
「大丈夫!お金なら俺が払うよ。遠慮しないで!あったかいお布団で、俺と一緒に眠りましょうね〜♪」
そして上機嫌に鼻歌を鳴らして歩き始めた。引きずられる形で歩き出した私は、あらあらあら?と考えた。
ひょっとして、これは騙されたってやつじゃないですか?
この人は最初から、こうなることまで計算済みだったのですか?
海に突き落としたことも、砂浜なんてない場所に連れてきたのも、全部が全部計画通りだったのですか?
どこまでが本当で、どこまでが演技なのだろう。
考えたけれどわからなくて、くしゅっ、とまたくしゃみが出た。
「なまえちゃん大丈夫?早く温泉入って浴衣着ようね」
そっと背中に手が回されて、あぁ、もう考えるのも面倒くさいや、と思ってしまった。
騙されてたとしてもいいや。
この人だけは、なんだか疑いたくないや。
そう思って、夜の海と同じ色に染まったワンピースを見ながら彼についていった。
死にたがり女子高生と変態男子高校生
END
*次ページ、あとがきあります*