第50章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)後編
「身動きがとれなくなっちゃったんです!」
完全に日が沈んで、人影にしか見えない彼に向かって、私は言った。
「私、"出来るキャラ"になっちゃったんです。あいつら、勝手にレッテルを貼り付けるんですよ。”みょうじさんが言うなら間違いないね”とか、”みょうじさんならまたクラスで1位だろうね”とか。でも私、みんなの言うほど凄い人じゃないんです」
本当は何も実力がないんです、と私は叫んだ。それが周りにバレることが怖いんです、と。
「中学から、高校に入ってもそれは同じでした。授業で分からない問題がある度に、どうか自分に当てないで、って下を向く気持ちがあなたにわかりますか。心のどこかで、やればできるって思ってるのに、努力するより、出来る自分を演じ続けることのほうに力を入れているんです。周りの奴らを見下して、自分より出来る人間にも、素直に"すごいね"って言えなくて、相手の欠点ばかり探している自分がいて………なに笑ってるんですか!?」
肩を震わせている様子の及川徹に憤慨すると、とうとう彼は大きな声で笑い出した。
「それが自殺の理由なの?」
「そうですよ!悪いですか!」
「悪くないよ!とってもくだらなくていいじゃない!」
「くだらない!?」
「『おお!その声は我が友、李徴子ではないか!』」
両手を広げてそう叫んだ彼は、「まるで山月記だね。なまえちゃんは虎にでもなりたいのかなぁ!?」と言ってまた笑い出す。
「大丈夫だよ。なまえちゃんが虎になっても、俺は気付いてあげるから!」
「言ってる意味が何一つわからないんですけど!」
「高2になったら分かるよ。『臆病な自尊心と尊大な羞恥心』テストに絶対出るからさ!!」
あっはっは、とお腹を抱えている彼に「私は真剣なんです!」と言うとピタリと静かになった。
「わかってるよ」
影になった彼は静かに言った。「死にたいくらい悩んでるって、ちゃんとわかってるから」
「死にたいんじゃなくて、死ぬんです。今から」
「才能を発揮できない自分が嫌だ。だから死ぬのかい?」
「はい、死にます」
「死ぬようには見えないけどね」
そう言って自分の言葉が面白かったのか、また笑い出した。それから「死にたきゃ死ねばいいさ!」と私に人差し指を向けてきた。