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【ハイキュー!!】青春直下の恋模様【短編集】

第50章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)後編


背後にいるはずの及川徹は何も言ってこなかった。だから構わず言葉を続けた。

「本当は、真っ白な世界にぶちまけたペンキの、その色溜まりの中で死んでゆきたいんです。だだっ広い空間に、好きなものだけ敷き詰めて、その真ん中で死んでゆきたい。でもそんな夢みたいな死に方、絶対できないんです。だから私はここで十分なんです。そうだ、先輩、私の遺書知りませんか?」

振り返って尋ねると、地面に顔を付ける寸前まで這いつくばってこちらを見ていた及川徹が「遺書?」と顔を上げた。その表情も、闇に紛れてよく見えない。

「私の遺書ですよ。昨日の夜書いたんですけど、なくしちゃって……っていうか、何してんですか」

「あのね、この角度だとね、なまえちゃんのパンツが見えそうで見えないのが良いなって思って」

「やめてください」

そう言ったものの、ワンピースの裾を押さえる気すら起きなかった。どうせこの下着も、彼の好みで選んだものだ。今更見られようがどうってことないし、おそらくこの男は下着を見ることよりも見えないギリギリを見たいと思っているのだろう。そんなくだらないことより、私は気になることがあるのだ。



「『この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう』」

黒い海を眺めながら頭の中に残っていた文章を呟くと、『とっくに死んでいるでしょう』と当然のように及川徹が続けた。

「『こころ』に出てくる、先生の遺書だね。あの小説は良いよねぇ」



膝についた砂を手で払いながら立ち上がった彼は、ところで、と今更な疑問を口にした。

「なまえちゃんは、どうして死にたいの?」

「え?」

驚いた。彼が興味を持っているのは私の死に様だけだと思っていたから、まさか私の死ぬ理由なんて聞かれるとは考えていなかったからだ。「気になるんですか?」と尋ねると、「うん。まあね」と平然と返された。



「………馬鹿ばっかりだからですよ」

「ん?」

「この世界のみんな、馬鹿ばっかりだからです」
そう言って私は、及川徹と向き合った。海から吹いてくる強い風が、背中をぐんと押した。二度もこの人の胸には飛び込むもんかと足で踏ん張って、真っ直ぐ前を向いて言ってやった。

「私はみんなとは違うんです。私はもっとやればできるはずなんです」

「それがどうして死ぬ理由になるのさ」
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