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【ハイキュー!!】青春直下の恋模様【短編集】

第49章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)前編


私が遊覧船に乗っているのはもちろん及川徹のせいである。彼は電車から降りるや否や美味しい海鮮丼を求めて観光案内所のお姉さんに話しかけ、そして教えてもらった店名を便りにスマホを駆使して昼食先に辿り着いた。「まぁまぁ!ここで会ったも何かのご縁!」が彼の旅先での決まり文句らしく、巧みな話術で隣テーブルの女子大生と楽しくお喋りしていたが遊覧船の話が出た途端それに乗ろうと言いだして、食事もそこそこに私を引きずるようにして店から飛び出し今に至る。


「あぁ、楽しいね!俺さ、小さい頃に来たっきりだから懐かしいんだよねぇ!昔はウミネコにお菓子あげれたよね?今はもう出来ないのかなぁ?」

そわそわと落ち着かない様子の彼はまさに遠足気分のようで、座っている私の腕を掴んで「ね、なまえちゃんもデッキ行こうよ」と誘ってくる。その仕草と口調は可愛らしいが、なにしろ180cm超えの運動部員だ。ものすごい力で腕を引かれて、半強制的に私は椅子から立ち上がった。

しょうがなく歩きはじめて、すぐにあれ、と気が付いた。私も彼も、両手に何も持っていない。


「あの、私の服どこですか?」

いつの間にか消えていたショップバッグの行方を尋ねると「とっくに捨てたよ」と言われた。「仙台駅前のさ、コンビニのゴミ箱に捨ててきた」

「えっ!?」

「もういらないでしょ?」

「ん、う……まぁ」

確かに、今夜死ぬなら荷物なだけだ。でも、あの服結構気に入ってたのになぁ、と微妙な気分でデッキへと続く扉を開けた。



デッキへ出ると、まず煩いエンジンの音が耳をついた。続いて、冷たい潮風。灰色の海。灰色の空。ガソリンの匂いと、並走するウミネコたち。


「わー!気持ちいいね!!」

先端の手すりに両手をついて、及川徹が目を細めた。整っていた彼の髪が、ばさばさと風でなびいている。その隣に私も立って、ジャグジー風呂の如く泡立つ海を見下ろした。


「こんな広い海を見てるとさ、どんな悩みもちっぽけに思えるね」
遥か遠くの地平線を見つめながら、及川徹が私に言った。


「先輩にも、悩みがあるんですか?」

バレー部主将で、背が高くてイケメンで、成績も悪くないと聞いている。そんなムカつくほど恵まれたこの人に、悩みなんて言葉自体が不似合いに思えてならない。


けれど私の質問に薄く笑った彼は、あるよ、と小さな声で囁いた。
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