第49章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)前編
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『右手をご覧くださいませ』
頭上のスピーカーから流れるガイドの声に、無意識に窓の外へと視線が向いた。
『見えております2つの島、湾内名所の、”双子島”でございます』
見ると確かに、海の上に丸い形と細長い形の、2つの島が浮かんでいた。でもだからといって、それがどうしたとしか思えなかった。
あんなの、ただの岩だろう。こんな面白くもない塊の寄せ集めが、どうして観光地になるんだろうか。
醒めた気分で見つめていたら、ほっぺたに冷たい感触がした。振り返ると、及川徹がペットボトルを持ってにこにこしている。
「飲み物買ってきたよ!はい、どうぞ!」
そう言って隣の椅子に腰掛けてくる。ありがとうございます、と手渡されたそれを受け取って、蓋も開けずに窓際に置いた。それから、大きな溜め息を吐く。
「あれ、なんか元気ないね?酔っちゃった?」
俯く私の顔を覗きこんでくる及川徹。この人の心がさっぱり読めないし、多分私の心も読んでもらえてないだろう。
(なんで遊覧船なんかに……)
げんなりしながら窓の外を見た。船着場に行く頃には雨は止んでいたが、依然灰色の雲は重たく空を覆っている。波は穏やかだけれど、白い霧が立ち込めてしまっていて遠くの島は影しか見えない。果たして今夜、私が目指す満月は見えるのだろうか。
「どう?」
窓の方を向いている私を景色を楽しんでいると勘違いしたのか、及川徹が身体をぴったりくっつけてきた。「どうって……モヤモヤしてて何がなんだか」と正直に言えば、「白んだ向こうに見える島々もまたいいじゃないの!」と訳の分からないポジティブなことを言って笑っている。
「松島はね、260個近くの島の集まりなんだ。伊達政宗も、松尾芭蕉も、アインシュタインも、みんなこの景色の上に月が浮かぶのを見て感銘を受けたんだってサ!」
そんな素敵な場所に沈めるなんて、なまえちゃんてば幸せ者だね!と相変わらずのブレなさ加減にも慣れてしまって、はは、と無表情で笑ってあげた。