第49章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)前編
その言葉を聞いた瞬間、ぞくりとしたものが背中を伝った。
この人ってもしかして、私の思った以上にやばい人かも。
「すみません、やっぱり私、生きようかな」
「うそうそ!そんな怖がらないで!」
何が嘘なんだかわからなかった。逃げたほうが良いのか、それともこの人についていっても良いものか、うんうん悩んでいたところに、ふと昨日の夜、教室で書いた自分の遺書を思い出した。
「その小説のKさんって人、遺書は書いていましたか?」
尋ねると、「え?うーん……」と及川徹は首をひねった。
「そんな描写はなかった気がするけど……なんで?」
「いや、なんとなく」
適当にごまかして、私はそっぽを向いた。Kさんとやらの遺書じゃないのなら、あの出だしに書いた一文は、どの小説の一節なんだろう。というか、私の遺書はどこへやったんだっけ。
考え込んだ私の耳に、次は、松島海岸駅、とアナウンスが聞こえてきた。すかさず「なまえちゃん、ここです!」と立ち上がった及川徹に、「え?」と驚いて腰を浮かした。
「松島に行くんですか?」
「そうだよ。なんと言っても日本三景の一つだもんね!」
「観光しに来たんじゃないんですよ」
プシュー、と音を立てて開いたドアの外へ、「なーに言っちゃってんの?」と及川徹が飛び出した。
「綺麗に着飾って、美味しい海鮮丼を食べて、美しい景色を見る!そして清らかな心で死ぬんでしょうが!」
笑顔でくるりと振り返った彼は、そう言って私に手を差し伸べた。
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