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【ハイキュー!!】青春直下の恋模様【短編集】

第49章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)前編


*





「月に向かって歩くんだ」


仙台駅の改札を抜けて、広い通路の一番奥。仙石線のホームから乗った電車の座席に座って、及川徹は私に言った。


「太陽が沈んだ後、満月が東の空にかかるでしょ?その月に向かって、砂浜から海の中へと歩いて行くんだ」




それが彼の考える、一番美しい死に方なのだそうだ。




「それをどうして私がやるんですか」

「だって、なまえちゃんは死にたいんデショ?俺は海へと歩くキミが見たい。需要と供給の一致。ギブ&テイクでラブ&ピース!」

適当なことを言って両手でピースを作る彼に「本気ですか?」とまた尋ねる。「そのためにわざわざ、私を全身コーディネートしたんですか?」


「本気本気。俺はいつでも本気だよ!」


軽い調子でそう言った彼は、身体をひねって後ろの窓の外を見た。つられて自分も窓を見る。小雨の降る中、日本のどこにでもあるような平凡な田舎の景色がどんどん後ろへ流されてゆくだけだった。



タタン、タタン、と電車が線路を走る音を聞きながら、次は一体どこへ行くんだろう、と考えた。


私は今夜、一体どこへ行くんだろう。



「月世界かなぁ」

心の声を読んだかのように、及川徹が呟いた。見ると、彼は私のことを見ていた。


「俺の今使ってる現代文の教科書にさ、『Kの昇天』って小説が載ってるんだ」
前に直った彼は、さり気なく私の肩に手を回して秘密めいた笑みを零した。「Kって人がさ、月へ行くために自分の影をじっと見つめるんだ。そしてその影を追って、海へ入って溺死する」


美しいよねぇ、とうっとりしたような声が私の耳元に落とされた。


「なまえちゃんは女の子だからさ、影じゃなくて、月を見ながら死んで欲しいな」

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