第49章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)前編
*
(どうしてこうなった)
仙台駅の看板の、オレンジ色の「台」の文字の下で、私は傘を差して突っ立っていた。パラパラと小雨が頭の上で音を立てている。手持ち無沙汰からポケットに手を入れたけれど、そこには何も入っていない。そうだ。スマホは昨夜コンクリートの上で3つに割れてしまったんだった。
「やぁやぁ、お待たせ〜」
待ったー?と口調だけは可愛い男性の声がして、振り返ると及川徹が立っていた。紺色の折りたたみ傘を差して、右手を小さく振っている。
「……ほんとに来たんですね」
驚いてそう言うと、彼は「冗談だと思ってた?」と爽やかに笑った。その笑顔に対して、冗談だと思ってました、と心の中だけで答える。正直言うと、”あの”及川徹がわざわざ平日の朝10時に学校サボって駅前に来てくれだなんて私に言うはずがないと思っていた。だから半信半疑で待っていたのだ。
「ってゆうか、明るいとこで見ると結構可愛いじゃーん」
私の傘を軽く摘んで、下から覗きこんできた彼は、何年生なの?と聞いてくる。「キミ、3年生じゃないよね?」
「1年生です」
「名前は?」
「……みょうじなまえ」
「なまえちゃん、ね。今日はよろしく☆」
まるでデートでもするかのようなノリに、あの、と思わず口を開いた。
「あの、本当に行くんですか?海」
「え、行く行く。行くよ。だって死にたいんでしょ?」
「あ……いや、まぁ」
そうですけど、と口ごもる。こんな真正面から確認されると、なんだか間抜けな気がしてしまう。
「だーいじょうぶだよ!そんな身構えないで!」
俺に任せて!とウインクをして私の肩に手を置いた彼は、「パルコとエスパル、どっちがいいかなぁ?」と駅前のファッションビルの名前を出してきた。あれ、やっぱりデートと勘違いしてないかこの人。
「海に行くんじゃないんですか?」
「行くよ。だけどその前に、色々準備しなきゃでしょ?」
「準備……ですか?」
わけが分からず尋ねる私の背中が「その通り!」と力強く押された。抵抗できずに、足が前へと進んでいく。
「美しく死ぬためには、それ相応のお洒落をしなきゃいけないからね!」
ふふーん♪と機嫌が良さそうな及川徹。そのハミングを聞きながら、怪しくなったら逃げよう、と心の中で私は思った。