第49章 死にたがり女子高生と変態男子高校生(及川徹)前編
「な、な、な、何!?」
目の前に突然落ちてきた物体に驚いたその人影は、え!?と飛び散ったスマホの破片を見て、え!?と天を仰いで、それから、4階の窓から山村貞子ばりに上半身だけを出している私を見つけて、うええええぇぇぇ!!!???と大きな大きな声を出して仰け反った。
「え、嘘嘘嘘!?何やってんの!!?」
「何、って……」
予想外の出来事に私は足を浮かしたまま、暗くて誰かもわからないその人の質問に馬鹿正直に答えてしまった。「飛び降り……ですけど」
「飛び降りぃ!?」
素っ頓狂な声を上げたその人は、嘘デショ!?本気!?と興奮ぎみに叫んでいる。その声があまりにうるさかったので、さっさと済ましちゃおうとさらに体重をぐっと前にかけると、ちょっとちょっとちょっと!と芸人の如く突っ込まれた。
「俺が真下にいるのに強行しないで!?やめなよ!飛び降りなんて!!」
「やめません。ほっといてください」
「この状況で、ほっとく人がいるなら俺は見てみたい!」
「知らないですよ。アナタ一体誰なんです?」
面倒なことになったなぁ、とうんざりしながら尋ねると、俺はソコの教室の生徒!と返事が返ってきた。あぁ、じゃあ先輩ですか。
「とにかく!飛び降りなんてナンセンスなことやめなって!!身体がぐちゃぐちゃになるんだよ!?」
「別にいいです。もう覚悟はできてますから」
脅しなんかで気持ちが変わるほど、私の決意は弱くなかった。マザー・テレサの教訓じみた話をもってしたって、今の私は止められないだろう。
そう思っていたけれど、頭が地面と垂直になって、バランスを保てなくなる直前に聞こえてきた、待ちなって!飛び降りはダメ!の次の言葉で私の気持ちは変わってしまった。
「飛び降りなんて死に方、キミには相応しくない!」
「え?」
「どうせ死ぬなら、入水自殺にしようよ!」
その発言に驚いて、両足がストンと床に戻った。なんですと?と真下の人影に目を凝らすと、ナイスなタイミングで月が雲から顔を出した。青白い光に照らされて、ようやく相手が見たことのある人だと気が付いた。
「海に行って、身投げをするんだよ!」
月明かりの下でそう叫んだ及川徹は、まるでバルコニーに両手を伸ばすロミオみたいに私に向かって手を差し伸べていた。
「女の子なら、死ぬ間際まで美しくあるべきだ!」