第48章 →→→←↑(松川一静)
「伝わってる伝わってる。大丈夫だから」
「全然大丈夫じゃないです。待ってください。ちょっと今からどのくらい先輩のことが好きか、伝える方法を考えますから」
「……………うーん」
静かにしてくれるなら、と落とされた呟きを許可と受け取って、私は腕を組んで考え始めた。
どうしたら、私がこんなに先輩のことが好きってわかってもらえるんだろう。
自分でも気持ちを抑え切れないほどに好きなのに、それが全て向こうに伝わっているわけがない。もうほんとにほんとに好きなんです。好きって気持ちが、いくら声に出しても無くならないくらい、湧き水みたいに胸から溢れてくるんです。好きって2文字じゃ、足りないくらいに。
「……そうか」
わかったぞ。2文字しかないからダメなんだ!「先輩への気持ち、今から歌で表現しますね」
「えっ?」
「ま〜つ〜か〜わ〜先輩の〜♪」
「ちょっ、ストップストップ」
大きく息を吸って歌い出すと、先輩がベッドの上まで飛んできた。
「なんなのなまえ、俺の勉強の邪魔しにきたの?」
「違います。先輩を愛でに来たんです」
「だったら静かにしてくれない?」
いい子だからさぁ、と大きな手が私の頭を撫でた。その優しい手つきがくすぐったくて、ふふ、と笑いが零れてしまう。
「松川先輩」
「なに?」
「ぎゅーってしても、いいですか?」
「………ちょっとだけなら」
降参、と両手を上げた先輩に思いっきりの力で抱きついた。抵抗しない身体はベッドの上にぼふんと倒れる。あぁ、私、この人のことが大好きだ。
「………松川先輩」
「んー?」
「私、先輩と別れたくないです」
「なんでいきなりそんな話するの」
「なんとなくです」