第47章 いつかの夢のパヴァーヌが(菅原孝支)※
『みょうじさん、って……』
『なに?』
『あ、いや……』
振り返ったなまえから、思わず視線を逸らした。体育の授業の後のことだった。
『なぁに?菅原くん』
尋ねる彼女の、Yシャツの第二ボタンが外れていた。
それだけで動揺してしまうほど俺はウブではないし、彼女以外の女子はうっかりじゃなくてもわざとリボンを緩めてボタンを外していたりするから、見慣れたことのはずだった。
だけど、
『みょうじさん……ボタン外れてる、よ』
『え?……あ、』
彼女の首に、糸みたいに細い金色のネックレスがかかっていた。
ほんとだ、と彼女の指先がボタンを締めると、すぐにそれは見えなくなった。
『みょうじさん、そのネックレス、』
心臓がどきどきしていた。『……自分で買ったの?』
『え?』
尋ねてから、なんて間抜けな質問をしてしまったんだと顔が熱くなった。自分で買ったの?なんて。
(すっげーガキみたいじゃんか……!)
黙ってしまった俺の気持ちがバレたのか、なまえは、ないしょ、と微笑んでチャイムと共に離れていった。
(誰から貰ったんだろう)
なまえの次に当てられた生徒の英語を聞きながら、ぼんやり教科書を眺めて考えた。
他の女子は、小指の指輪とか耳のピアスとか、わざと見えるところにつけるのに。
なまえの首元に光るネックレスは、明らかに誰かに見せるものじゃなかった。
(中心には、どんな飾りがついてるんだろう……)
見えたのは、細い鎖の部分だけ。
彼女のシャツのボタンを外して、鎖骨の間に揺れるチャームを見てみたい。
そんなことを考えてしまって、また腰がふわふわしてくる。