第46章 2万5000分の1のキミへ(月島蛍)
【3、理解するということ】
「それ、おいしいの?」
公園のベンチに座るなまえを見つけて声を掛けた。黄色い落ち葉が、桜の花びらのように降っていた。
「………うん」
ひらがなは、甘い味がするんだ。
百人一首の本をめくりながらそう言ったなまえの隣に、月島は並んで腰掛けた。
「なまえって、共感覚があるんだね」
「なぁに、それ」
「音に色が見えたりするんだってさ」
昨日調べた知識を思い出しながら、足元の落ち葉を蹴飛ばした。「特定の刺激に対して、他の五感も反応しちゃう人がいる」
「ちょっと、言ってる意味がわかんない」
「僕だってわかんないよ。でも、そういう人がいるんだって。数字に性格があるように感じたり、音に匂いを感じたり。形に味を感じる人がいるんだって」
「………味も?」
「うん。そういう人が、この世の中には存在する」
まさかこんな身近にいるとは思わなかったけどね。
そう言うとなまえは、私だけかと思ってた、と言って少しだけ泣いた。