第46章 2万5000分の1のキミへ(月島蛍)
【2、みょうじなまえという少女】
月島蛍の、みょうじなまえに対する印象は、ちょっとだけ変なところがある子。ぐらいの程度だった。
いつもぼんやり空を見ている。
遅刻が多い。サボりもする。
俯きがちで声も小さい。けど友達は多くて、月島みたいな男子とも平気で話す。
その代わり、誰とも親密にはならないみたいだ。
部活は何かはわからない。
体育の時間に、日当たりのいい場所を見つけると、その場から動かなくなる。だから運動部ではないのかもしれない。
愛読書は、どういうわけだか百人一首。
地面から1cm、浮いてるような感じの子。
成績は、そこそこ良い方。
特に英語は、いつもクラスの順位がトップ。
「月島くん、ここ、教えて」
だけど、漢文の成績は悪い。
「古文は満点なのに」
なまえの模試の答案を眺めてそう言うと「勉強、したくなくって、」と小さな声が落とされた。「漢文は嫌い」
「古文に比べれば、単語も文法も少ないよ」
「うん……」
なまえは制服のポケットに両手を突っ込んで、足元を見ながら返事をしていた。もしかして、と思って月島も視線を辿るけれど、彼女の足は地面についている。
「りんごあめなの?」
問題を解説し終わった後、参考書を閉じてなまえに尋ねた。
「ん?」
「僕の名前」
「……うん」
「なんで?」
「なんで、って……」
なまえは困ったように笑って、言ってもわからないと思うなぁ、と呟いた。それから、小さな声でお礼を述べて、彼女の席に戻っていった。