第5章 錠と自由(西谷夕)
「夕!おい、ゆうー!」
「あ?」
試合が終わり、メンバーと共に体育館を出たところ、なまえが階段をかけ上ってきた。遠くから走ってきたのだろうか。西谷の前まで来ると両膝に手をのせて肩で大きく息をしながら咳き込んだ。
「おぉ、なまえか。なんでこんなとこに...って、俺が呼んだんだっけ」すっかり忘れていた。「こいつ、俺と同じクラスの奴なんす」
西谷はケラケラと笑って、チームメイトになまえを紹介した。
なまえは息切れが激しすぎて喋れないようだった。
「どーだったよなまえ?俺の華麗なボールさばきは...」
がしり、となまえの両手が西谷の両肩を掴んだ。女子とは思えないほどの握力と重みに、西谷は身の危険を感じ、ひっ、と声をひきつらせた。
周りの烏野メンバーも、突然の彼女の行動に、後ずさって距離をとった。
「...ばん...った...」
「あ?」ぜえぜえと頭をもたげているなまえの言葉は途切れ途切れで、うまく聞き取れない。「なんだ、大丈夫か?」
「一番!かっこよかった!」
なまえはばっと顔を上げて叫んだ。
「なっ...」
さすがの西谷も仰け反って固まる。
「なんだお前!すごいな!一番盛り上がってたよ!ずるいな!」
なまえの目がキラキラと光っている。
「な、なにいってんだよ」西谷はあまりの迫力に腰が引けていた。「盛り上がるってなんのことだよ」
「会場だよ!」 なまえは西谷に顔を近づけて大きな声を出した。「あんたがボールをあげた時、一番会場が沸き上がるんだ!あの場にいた全員の予想を裏切って!あたし、震えちゃったよ!」
「はあぁ?」西谷の眉間にシワがよる。「応援なんていちいち気にしてるわけねぇだろ。こっちは勝つので必死なんだ」
「わかってるよ!でも、勝ち負けよりも、みんなを感動させられる方がすごいだろ!見てたか?相手の応援団すら唖然として口開けっぱになってやんの!」
「だから見てねーっつーの!」
「地味なんて言ってほんっとーに悪かった。見直したよ、リベロ」
なまえは、ばんばん、と西谷の肩を叩いた。その強さに西谷の身体がガクンガクンと揺れた。