第5章 錠と自由(西谷夕)
「いてーな!やめろよ!」
西谷が抵抗のパンチを繰り出すがなまえはそれをひらり、と避けて豪快に笑った。そして満足したのか、「じゃな西谷、今度はあたしのステージも見に来てよね」と言って颯爽と帰ってしまった。
残された西谷と、烏野のメンバーはあっけにとられて立ち尽くすことしかできなかった。
「...びっくりしたなー。なんだったんだ、あの子」
最初に口を開いたのは菅原だった。
「なんか、西谷みたいな子だったな」
大地も苦笑している。
「はぁ!?どこがすか!?」
西谷は大地の発言に食い付いた。
「わかるわかる」
「旭さんまで...!!」
「いやいや、俺は羨ましいぜー、ノヤっさん」田中が西谷の肩をぽん、と叩いた。「あんな美人な子にめちゃめちゃ褒められるなんてな」
「美人?」その単語に西谷は眉を潜めた。「なまえが?」
「へー、なまえちゃんって言うのか」田中は腕を組んでふんふん、と頷いた。「美人じゃねーか。背も高いし」
西谷は衝撃を受けた。そんな発想、したことがなかった。
「美人というより、イケメンって感じでしたけどね」影山も田中に同意した。「整ってましたね。顔」
「だろー」田中は嬉しそうに笑った。「なあノヤっさん。今度俺にも紹介してくれ。いらないならくれ」
「だめだっ」
西谷はとっさに拒否した。思っていたよりも鋭い声が出て、狼狽する。周りのメンバーの意外そうな視線に、慌てて言い訳を探した。
「...なまえは、お、男っぽいから、だめだっ」
理由になっていないことは西谷にもわかった。けれど他になんて言えばいいのか、わからない。もやもやとした感情だけが渦巻いていた。
そんな西谷の態度を見て、メンバーの大部分は、ほほう、とお互いに目配せをした。
(((明日から、からかうネタが増えたな...)))
にやにやと笑うメンバーには気付かず、西谷は自分の中の名状しがたい感情に「???」と首を傾げていた。
END