第45章 11.17 HAPPY BIRTHDAY!!(黒尾鉄朗)
「夜久はさ、ほんっといいよなー。なまえと隣の席でなー。俺がお前だったら、もっとひょいひょいっとうまくやれんのになぁ」
適当なことを言う黒尾に、ひょいひょいってなんだよ、と笑ってしまった。
「黒尾の場合は、素直になればいいだけだろ」
「2人きりになったらな?2人きりになったら、俺だって素直になれるんだよ。きっと。18歳の鉄朗クンは、今までとはひと味違うはずだ」
ふーん、と聞き流したら、黒尾が無言で立ち上がった。どこいくんだよ?と澄ました顔で尋ねると、便所、と予想通りの答えが返ってくる。
「おい、いいか?2人きりになれればな……「わかったから」」
くるりと振り返った黒尾の言葉を制止して、とっとと行け、と右手を振って追い払う。とぼとぼと歩いて行く、その背中を横目で辿る。教室から出ていったのを確認してから、俺はすぐさまなまえの席へ駆け寄った。
「おいみょうじ。チャンスだ」
机に両手をついて囁くと、へ?と彼女が顔を上げた。
「黒尾がトイレに行ったんだ。廊下で待ち伏せして渡してこいよ」
「でっでもでもでも」
目を丸くしたなまえが真っ赤になって両手を振った。もう昼休み終わっちゃうし、と訳の分からないことを言い出したので、いいから行けって!と腕をひっぱって立ち上がらせた。
「何も喋んなくていいから。無言で押し付けて走って逃げていいから!」
「そう言われても……!」
心の準備が!と言い訳するなまえに鞄を持たせて、その背中をぐいぐい押した。教室の正面にある、男子トイレの扉の前まで押し出していく。
「夜久、今は無理だって……!」
「つべこべ言うな。これを逃したら、もう渡すチャンスなんてないんだぞ」
「でも………!」
男子トイレの前で、2人でしばらく押し合っていた。やっぱ無理!となまえが口を開いた瞬間、ドアが僅かに動いた。それに気付いた俺は、彼女を軽く突き飛ばして教室に駆け込んだ。