第45章 11.17 HAPPY BIRTHDAY!!(黒尾鉄朗)
昼休み
「おい、いい加減落ち込むのヤメろ」
机の上で頭を抱えている黒尾を椅子ごと蹴りあげた。その隣の席に腰掛けて、昼食のおにぎりを頬張るっていると、やくうぅ、と情けない鳴き声までしてくる。
「……もらえなかった」
「あ?」
「プレゼント、もらえなかった」
低く吐き出されたその声に、お前なぁ、と呆れてしまった。「あんな態度で催促されたら、みょうじじゃなくてもあげる気失せるだろー?せっかく俺がきっかけ作ってやったのに、無駄にしやがって」
「だって、お前らのお祝いが嬉しすぎて、テンションあがっちまったんだよ。しょうがねぇだろ」
あぁ、俺の誕生日忘れてたのかなぁ?あんなアピールしたのに!と嘆く姿に目も当てられない。いつもニヤニヤ構えているのに、なまえのことになると途端にこうだ。本当、面倒くさいやつ第2号。
身体を捻って振り返ると、一番後ろの席に座るなまえが見えた。すでに昼食を食べ終えているのか、次の時間の予習をしている。
「……用意してるかもしれねぇじゃん」
なまえに視線を向けたままそう言うと「してねぇだろ」とイジケた声で黒尾が言った。「俺なんかにあげたくないっつってたじゃん」
「いや言ってたけど……もしかしたらさ、あるかもしれないじゃん?サプライズ的な?」
「ねーよ。アイツ冷たいじゃんか。俺だけに」
それはな、嫌ってるわけじゃなくて、照れ隠しなんだって。
そう言えたらどんなに楽だろうか。でも”余計なお世話”ってやつなんだろうな、と考えて前に向き直った。
なまえと黒尾から恋愛相談をされたのは、ほぼ同じ時期だった。最初の頃こそ素直になれない2人を見て楽しんでいたけれど、すぐにこの絶妙なすれ違いに苛々するようになった。本当に面倒くさい。でも、放っておけない自分もいる。
「なあ黒尾。元気出せよ。まだ今日は終わってないだろ。みょうじの気が変わるかもしれない」
「気が変わるって何だよ。それともなに?アイツ俺の誕生日について何か言ってたか?」
「それは……」
言葉に詰まる。「………特に聞いてないな」
「だろ」
再び暗い影を落とした黒尾の顔を見ながら、そうか、と考えた。期待しないほど、もらえた時の喜びは大きくなるのか。俺が励ますべき相手はこいつじゃないな。