第44章 惚れてしまえばあばたもえくぼ(灰羽リエーフ)
「6分目くらいです」
胃腸のつもりになって言ってみた。そしたら、リエーフがふんふんハミングしながら『腹いっぱいになればすぐ寝れますよ』と言った。『お母さんに頼んで、なんか作ってもらってくださいよ』
そんなぁ、とまた笑ってしまう。きっと育ち盛りのリエーフは、夜中眠れずに母親に夜食をねだったりしているのだろう。台所でわくわく顔で待つ彼を想像してみる。とってもとっても愛おしい。
『とりあえずほら!ベッドから降りて電気点けましょ!悩み事は夜にしちゃだめだって、ロシアに住んでるばあちゃんが言ってましたよ!』
「リエーフ、ロシア人と会話できるの?」
『できませんよ。親から聞きました』
「適当すぎ。リエーフやっぱ面白いね」
「どういう意味ですか?それぇ……でもロシアには行ったことありますよ。知ってます?あそこめっちゃ寒いんです!雪なんてこんなたっかく積もって……マイナス25℃とかいくんですよ?しかも夏でも雪降ったりするんですって。とか聞いてたのに行ったら普通に30℃超えてたし……意味わかんない。マジ意味わかんないですロシア。あ、電気つけました?」
「うん?」
布団の中で首を曲げて、部屋の入り口に目を向けた。電気のスイッチが遠い。代わりに手を伸ばしてカーテンの裾を掴むと、月明かりがベッドの上まで伸びてきた。
「つけたよ」
『ほら、もう寂しくないでしょ?』
耳元で、リエーフが笑った。『独りぼっちじゃないですよ、先輩』
「そうね」
窓の向こうに三日月が見えた。星の見えない夜空に、1つだけ青白く輝いている。同じ月が、リエーフの部屋の窓からも見えるのだろうか。