第44章 惚れてしまえばあばたもえくぼ(灰羽リエーフ)
「ごめんね。用もないのに、邪魔しちゃって」
『いやいや!なまえ先輩が寂しい思いしてるなんて一大事ですよ。大丈夫です。俺とお話ししまショ』
そう言って、不甲斐ない私のことを馬鹿にもせずに受け入れてくれる。これがいつものことだった。単純思考な彼だけど、こういうところが素敵だと思う。
本当に私とは真逆の性格。なんでこんなちぐはぐなのに付き合えているんだろう。むしろ、真逆だから上手くいっているのかもしれないな。
『先輩』
私の沈黙に、リエーフが口を開いた。
「なあに?」
『またこんがらがったこと考えてるでしょ。何ですか?また深海魚のことですか?』
「違うよ。リエーフのことを考えてたんだ」
素直に言うと、そうですか、と特に照れもせずに返された。
耳元で彼の声がするのに、私の隣には誰も寝ていない。とても変な気分だった。どうして隣にいないんだろう。なんだか、余計に寂しくなってしまう。
「リエーフ」
『なんですか?』
「キスしたい」
『えっ………………電話じゃできないですよ』
「うん。わかってる」
彼に会いたいと思った。大きな身体に包み込まれたい。意識してしまった唇を自分の指でなぞってみるけど、胸の締め付けが強くなるだけだった。
「リエーフ、そこにいるの?」
天井に手を伸ばして、見えない彼の名前を呼んだ。「いるんだよね?自分の部屋に」
『いますよ』
「私ね、いま真っ暗な部屋にいるの」
伸ばした右手の指先が、うっすら透けているような気がした。
「ほんとに今、この世界にリエーフがちゃんと生きてるんだよね?私、独りじゃないよね?」
『あはっ、先輩がまた面白いこと言い出した』
「面白くないよ。私、いま寂しいの。世界で独りぼっちのような気がするの」
泣きたくなってそう言うと、ははーん、と察したような声がした。
『先輩、ひょっとして、お腹がすいてるんじゃないですか?』
「え、おなか?」
『寂しい気持ちになるときは、だいたいお腹がすいてるときなんですよ』
「なぁにそれ。リエーフが変なこと言ってる」
仰向けのまま、ふっと笑って、自分の身体に聞いてみた。もしもしなまえさん。いまお腹すいてるの?この胸に穴があいたような空っぽの気持ちは、実は胃が空っぽだからなの?