第44章 惚れてしまえばあばたもえくぼ(灰羽リエーフ)
「私、だけど」
布団の端っこを掴んで、天井の染みを見たまま言うと『あぁ、なまえ先輩』と名乗らずとも気付いてもらえた。
『スミマセンいま手が離せなくって、ってって……あ、忙しいって意味じゃないですよ!両手が塞がってるって意味でぎゃああぁそれはエグい!やめて!マジで!!』
俺のアイテム回収してくださぁい!!と音割れするくらいの大声に、うん?と寝たまま聞き返す。ゲームでもしているのだろうか。耳を澄ますと、おそらくパソコンかテレビから流れているであろう銃声や人の声もぶつぶつと聞こえてきた。
「リエーフ、ゲームしてるんだ?ごめん、切るね」
『や!大丈夫です!聞いてるんで、勝手に用件喋ってくれれば!』
「そう言われても……別に用があったわけじゃないんだ。ただリエーフの声が聞きたかっただけで」
『そうなんですか?……やっべ、ここドコだ!?先輩、そっちからリスポーン地点遠いですか?』
「リス……え、何?」
『あ、違いますなまえ先輩のことじゃなくて……おわっ!それは卑怯っスよ、研磨さん!』
「研磨?」
突然飛び出した同学年の名前に、天井に向けていた視線が横にずれる。「リエーフ、今どこにいるの?」
『俺の部屋です!夜久さぁん何サボってんですかまた負けちゃいますよこれじゃあ!』
「みんなそこにいるの?」
暗闇の中で壁にかかる時計に目をこらした。もう夜の11時だ。
『いないっスよ!俺1人です……あ、違います違います。こっちの話です!なまえ先輩から電話かかってきてて……いやいや何いってんスかそんな無茶な』
「ちょっとリエーフ、説明して」
こっちの話がどっちの話なんだかわからない。「いまどんな状況なの?」
『ゲームしてます!』
バキュンバキュン、と飛び交う銃声の音に「それは知ってるけど」と言うと『オンラインで対戦してます!』と追加情報が与えられた。『スカイプしながら!』
その言葉でやっと理解した。「あぁ、そうなんだ」とまた天井を眺めながらぼんやりと返した。つまり彼は1人自室でネットを通じたゲームを部員と共に楽しんでいるのだ。複数人で同時通話ができるサービスを利用しながら。そこに私との電話まで同時に並行させようとしている。そりゃあ混乱するわけだ。