第5章 錠と自由(西谷夕)
サーブ、レシーブ、トス、スパイク。よくまあこんなにほいほいとボールが繋がるものだ。外から見ている分には簡単そうだが、実際やってみると難しいんだろう。
なまえは飛び交うボールを見ていた。意外に退屈はしていない。烏野が強いかどうかはイマイチわからないが、やけに目立つオレンジ色の髪をした子は、小さいくせに周りに負けないくらいジャンプするし、トスからスパイクの流れが目が覚めるように速い。
それに対して西谷はボールを上へ上げるだけだ。
なんだ、やっぱり地味じゃん。
相手チームのサーブが飛んで来る。それを西谷がレシーブを受けた。バシィッという音が体育館に響く。
「ーーーっ、いたそー」
なまえは思わず眉間にシワを寄せた。バレーは体育で経験したことがある。友達が放り投げたボールを打ち返すだけで、なまえの腕はすぐに赤くなった。
あんなスピードのボールに自分から当たりにいくなんて、絶対痛いよ。なに考えてんだ。
コートの上で楽しそうに笑っている西谷が信じられなかった。
宙に浮いたボールを捕まえてトスが上がる。またオレンジの子がスパイクを撃った。
しかし相手のブロックがそれを止めた。ボールは勢いよく烏野のコートへ弾き返される。
あ、落ちる。
なまえはそう思った。烏野の選手たちも身体が反応しなかった。ただ一人を除いて。
床とボールの僅かな隙間。その空間に西谷は手を滑り込ませてボールを高く上げた。
おぉ、と会場にどよめきがおこる。
彼が上げたボールによってまたラリーが続いた。
今度は相手のスパイク。烏野の選手の一人がそれを拾うが、ボールはコートの外へと大きく飛んでいく。
あ、と思ったときには西谷が着地点に滑り込んでいた。豹のようにしなやかな動きだった。
なまえも次第に前のめりになって試合を見守った。ラリーが続けば続くほど、周りの声援はどんどん大きくなっていく。