第43章 魚は宙に浮かんだままで(山口忠)
「ねえなまえ、占いって信じてる?」
緊張をほぐしてあげようと、あえて告白とは関係ない話題を出した。占い?と聞き返したなまえは、迷うこと無くこう言った。
「いい結果だけね」
いい結果、かぁ。
「これ、なまえにあげるよ」
ポケットから包み紙を引っ張りだして、なまえに見せた。それを覗き込んだなまえは、数を数えて、「わ、10ペコ」とまた笑った。「私にくれるの?」
「うん。お守りに持ってってよ」
「ありがとう」
それを大事にブレザーの胸ポケットに仕舞いこんで、そろそろ時間だね、となまえが呟いた。その声が、また微かに震えていた。
「この告白はさ、」
ゆっくり立ち上がった彼女が言った。「前に進むための決別の儀式だ。じゃないと、いつまでたってもずるずる引きずっちゃう。気持ちを伝えて、吹っ切れてくる」
「うん」
「あぁ、なんで好きになっちゃったんだろ。苦しいよ。月島くんのことなんて、好きにならなきゃよかった」
「そんなこと言わないでよ。ツッキー格好いいじゃん。それに、まだダメだって決まったわけじゃない」
「うん……」
「俺、ここで待ってるからね」
「ありがとう。私、月島くんなんかじゃなくって、」
山口を好きになればよかった。そう言い残して彼女は歩き出した。しゃがんだまま見上げたその横顔は、漫画で見るような真っ赤な顔の女の子じゃなくて、まるで戦場に向かう少年兵士のようだった。
なまえの姿が校舎の角に消えた後、暗くなりかけた体育館裏で、山口はじっと待っていた。
羨ましいなぁ、と思っていた。月島ではなくて、好きという気持ちを相手にぶつけられる、なまえのことが。