第40章 さよなら私。ごめんね、私。(影山飛雄)
「なんで泣いてんだよ」
「わか、んない?」
「……わかんねぇ」
「…………ないからだよ」
「あ?」
「可愛くないからだよ!私が!!」
「!?」
自棄になって振り返ったら、影山が驚いたように仰け反った。だけどそんなのどうでもよかった。
「必死で隠してたのに、なんで無理矢理見ようとするのよ馬鹿!!!」
両手にもった雑誌と新聞紙を、シワが寄るくらい抱きしめて、力いっぱい「どうせメイクしないと可愛くなれないんだよ!」と叫んだら、「はぁ?」と拍子抜けした声が返ってきた。
「みょうじ、お前、いつものあの死んだ目のほうがカワイイと思ってんのか?」
「死っ……!?どういうことよソレ!世間一般の可愛いの基準わかって言ってんの!?」
「知らねぇよ、んなもん」
それから、あー、と左右にゆらゆら揺れた後、影山は「よくわかんねぇけど、」とボソリと呟いた。
「こっちのほうがいいんじゃねーか?こざっぱりしてて」
「………………」
「悪い、朝練遅れちまうから」
そう言って涙で滲んだ朝日の中を走って行ってしまった。
「………………」
残された私は、その背中を見送りながら独りで泣くしかなかった。
すっぴん見た感想が"こざっぱり"なんて、口下手にも程がある。
っつーか、泣かせといて放置とか。
馬鹿か。馬鹿か。馬鹿か、影山は。
死んだ目ってどういうことだよ。
こっちのほうがいいって、どういう意味なんだよ。
私が毎朝、どんな気持ちでカーテンに隠れているのか、説明したって分かんないんだろうな。
勝手にしゃくりあげる身体を抑えられないまま、自分の重たい気持ちを全部全部全部落としてしまおうと、溢れる涙をどんどん流した。
努力して作った自分は少し好きだったのにな、
偽物の顔も、可愛くはなかったのかな。
嘘でしょ。可愛いよ。
でも彼の好みじゃなかった。全部。
わけがわからないよ。少女漫画の主人公みたいに可愛くなりたいのに、その前に可愛いってなんなんだ。誰が決めたんだよ。
可愛くなりたいよ。
影山にとっての可愛い子でいたいよ。
でもどうすりゃいいんだよ。
泣きじゃくる私を慰める人間は誰もいなくて、
洗いたての街で、ただ一つ、太陽だけが眩しかった。