第40章 さよなら私。ごめんね、私。(影山飛雄)
その日、
自分のクラスに向かいながら、周りの視線が気になっていた。
なんで今なの!?とお母さんに怒られて、遅刻ギリギリのこの時間。
スースーする首元に、下を向いても心許ない。
教室の扉に手を掛けて、ちょっと迷った。
笑顔、笑顔。いつも通りに、笑顔で
ぶつぶつと呟いてから、扉を開ける。
「お、おはよ〜……」
「あ、なまえ!おは……!?」
扉の近くにいた友達が、ぎょっとしたような顔をして固まった。周りの視線が集まる。居た堪れなくなって、アハハ、と笑って右手を頭の後ろに当てたけど、いつもよりうんと少ない髪の量が、逃げるんじゃないよと私を小突いてくる。
「なまえ……えっ、どう、したの?」
「なんってゆーか……イメチェン?みたいな」
「みたいなって……そんな……っていうか、……」
絶句している友人に、あー、うん。と視線を泳がせた。やっぱりそうだよね。昨日までバリバリメイクのギャルだったのに、いきなりショートカットのすっぴん女になってたらびっくりするよね。
困惑している友達は、なんとかかんとか頭を悩ませて、最後にやっと、失恋?と尋ねてきた。
「違うよ。ただいつもと違うことをしてみたかっただけ」
「そっかぁ……うん、なんっていうか……変わったね……すごく」
慎重に言葉を選んだんだろうな。可愛い、と言わないあたりが正直で良いと思う。
私は黙って自分の机に向かった。その途中にも、男子の好奇の視線が突き刺さる。
「おはよ」
隣に座る影山に、初めて自分から声を掛けてみた。彼は、おう、と私の方を見て、すぐに視線を朝自習のプリントに戻した。
「これ、鍵。学校来る途中で見っけたよ」
「まじか、さんきゅ」
「………」
「いつ切ったんだよ」
「あの後すぐ」
「ふーん」
それから、もう私に視線を寄越してこなかった。
こなかったけど、問題を解きながら一言、
「似合ってんな」
それだけ言った。
でも、それだけで十分だった。
あー、不思議だな。
後ろで誰かがヒソヒソと話しているけど、何故だか全く気にならない。
背筋を伸ばして、真っ直ぐ黒板を見つめた。
今度の私は、なんだか好きになれそうな気がする。
END