第40章 さよなら私。ごめんね、私。(影山飛雄)
『なぁ影山。お前、ロングの子とショートの子、どっちが好み?』
影山の前の席の男子が彼にそう質問したとき、内心「よくやった!」と喜んだ。影山は口を開けばバレーのことばかりで、好みのタイプや気になる女子について話したところを見たことがなかったからだ。
『は?髪型なんてどうでもいいだろ』
突然質問された影山は、意味がわからない、といった顔で返していた。
『いやでもさ、どっちかって言ったら、どっちなわけ?』
『はぁ……?』
眉間にシワを寄せて首を捻るその隣の席で、私はこっそり聞き耳を立てていた。
『よくわかんねぇけど、鬱陶しくないほうがいいんじゃねーか?』
無感情のまま呟かれたその言葉を聞いて、次の授業が始まるまでに、急いで髪の毛を1つに縛った。それが昨日のことだ。
「ううう、やっぱり鬱陶しいかなぁ」
鏡の中の自分に聞いてみる。
後ろで髪を纏めてみたり、サイドに流したりしてみるけど、どれもイマイチ。
お母さんに切ってもらおうかなぁ。
私の大好きな美容師のお母さんは、いつも私の髪を見て「貞子みたいね」と顔をしかめる。ずっと煩いと思っていたけど、こうやって見ると確かにお化けみたいなのかもしれない。
中学の頃から、ずっと伸ばしてきた、周囲の視線から私を守る長い髪。
落ち着くから、結構気に入っていた。
嫌いなところだらけの自分の中で、数少ないこだわりのあった部分だったのに、好きな人の好みじゃないとわかったら、途端に捨ててしまいたくなった。
ううん、と頭を悩ませて、ヘアーアイロンに手を伸ばしかけて、そうだ、と思い出した。
今日は定期購読しているファッション雑誌が届く日だ。もしかしたらまとめ髪やショートヘアアレンジのやり方が載っているかもしれない。
そう思い立って、そろそろを自室を出て、階段を降りた。
暗くて静かな家の玄関でサンダルを履いて、重い扉を押して外に出た。