第39章 タイムマシンがあったなら、(二口堅治)
「え、俺?」
なまえの大きな瞳が俺を見ていた。けれど「その男の人、誰ですかぁー?」と落とされる声に、彼女の視線は3階の窓へ戻っていった。
「なんで二口がそんなこと聞くのー?」
「いいじゃないスかー、別にぃー」
「クラスのともだちだよー」
なまえは大きな声で言ってから、ハッとしたように息を止めた。彼女が俺の方を見る、それより前に、俺は手元のパンに視線を落とした。なんでもないようなフリをして、気が付かないようなフリをして、成分表示を読んでいるフリをした。
(いや、お前は間違ってないよ、なまえ。)
心の中を引っ掻き回されて、もやもやが胃の中に溜まり始めた。
(だって、ほんとのことだもんな。)
そうしている間にも、芝生に座るなまえと、地上10mの高さにいる男との会話は続いた。
「せんぱぁーい、なんで部活来ないんですかぁー?」
「引退したからに決まってるでしょー!」
「あー、そうでしたー」
(アイツ、一体何者なんだ?)
俺のことを"友達"だと、無意識になまえに言わせたアイツは何なんだ?
心臓をバクバクいわせながら、でも悟られないように、興味無さそうなフリをしながらチラリと窓に目線を送った。
(他にも男子はいるのに、なんでピンポイントに俺を指名したんだ?)
(俺がなまえの隣に座っていたからか?本当にそれだけなのか?)
遥か上から笑顔で見下ろすアイツは、なまえさぁん、と爽やかな爆弾を落とし続ける。
「暇なら俺と、遊んでくださぁーい」
「えー?」
「バレー以外のことして遊びましょー」
「何言ってんのよ二口!」
ちゃんとバレーしなさーい、と叫び返すなまえの声がいつもより少し浮わついていたから、つい彼女の顔を見てしまって、あっ、と慌てて下を向いた。