第39章 タイムマシンがあったなら、(二口堅治)
「なまえさぁん」
「何よー!」
「俺とデートしましょうよー」
「はぁー?」
「好きでぇーす」
「はぁ!?こらちょっと!二口!!」
腕を振り上げるなまえの大声が聞こえる。
「先輩をからかわないでよ!!こっち降りて来なさい!!!」
「いやでぇーす」
「こら!待ちなさ……!!あぁ、もー。逃げ足だけは早いんだから」
「なんだよなまえ、めっちゃ後輩に舐められてんじゃん」
6人のうちの誰かの声がする。うるさいなぁ、と言い返すなまえの声も。
「二口だけだよ。私の言うこと聞いてくれないのは」
「いや、だからそれが舐められてるってことだろー?っつーか、あいつ、お前のことガチで好きなんじゃね?」
「バカ!こんな堂々と告る奴なんていないでしょ?」
「ははは!確かに!!!」
笑い声に包まれる6人の輪の中で、俺はなんでもないようなフリをして、また手元の成分表示を見ているフリをした。
(あぁ、誰も気付いていないみたいだ。)
胃の中に溜まったもやもやが、今度は身体の奥から迫り上げて、口から出てきそうだった。
なんで俺だけが気付いてしまったんだろう。
なんで見てしまったんだろう。
3階の窓を見上げるなまえの顔。すぐに気が付いてしまった。
(だって、あんな顔。)
「でもさー、結構イケメンだったじゃん?なまえとお似合いなんじゃねーの?」
なぁ?と誰かに右肩を叩かれて、そうだな、って、味のしないパンを噛み締めながら、精一杯の強がりを押し出した。
「いい奴なんじゃねーの?知らねぇけど」
(あんななまえの顔、初めて見た。)
ここまできても物分かり良く振る舞おうとしてる自分に気が付いて、吐き気が止まらなかった。
END