第39章 タイムマシンがあったなら、(二口堅治)
俺の告白失敗から3日後の昼休み。
いつもの男女6人のグループで、いつも通りに中庭の芝生の上で昼食を食べていた。輪になって、適当に話をしていた。
来週から梅雨入りだというニュースを、スマホの画面外へと親指で押し上げながら、入学式から変わらないなまえの声を聞いていた。2年前の告白なんてなかったみたいに、3日前の告白なんてなかったみたいに、俺の隣に座って小さな弁当を広げながら「ねえ、そうだよね?」なんて俺に同意を求めてくる。
いつもと違うことが起きたのは、なまえに適当に相槌を打って、手元のパンを1口噛じった、その直後だった。
「なまえさぁーん」
初夏の青空に向かって、ぽーんと投げられた白球、
みたいに伸びやかな声が、俺たちの上から降ってきた。
「なにしてんスかぁー?」
声のする方向に、芝生の上の6人が一斉に顔を上げる。
首を思いっきり反らすと、校舎の3階の窓から、知らない男子の顔が見えた。
(誰だ?)
固まっている輪の中で、ふたくち、となまえの小さな呟きだけが鼓膜を揺らした。
「なまえせんぱぁーい」
叫んでるわけでも、大声を出しているわけでもなく、
まるで塔の上から長い髪をおろす映画の中のラプンツェルのように、そいつは明るい呼び声を彼女に落とした。
「誰?なまえの彼氏?」
6人のうちの誰かが呟いた。
「バカ、後輩だよ」
すかさずなまえが否定をして、両手でメガホンを作って叫んだ。
「お昼ご飯だよ!見ればわかるでしょー!」
「えー、そうなんすかぁ?」
フタクチ、と呼ばれたそいつは、楽しそうに窓の縁に両手を組んで「その隣の人、誰ですかぁー?」と人差し指を向けてきた。
「隣の人?」
「そうですー、先輩の隣の人ー」
「こっち?」
「そっちじゃなくてぇー」
反対側に顔を向けていたなまえが、今度はこちら側を向いた。パチリと目があった。