第39章 タイムマシンがあったなら、(二口堅治)
俺の記憶が正しければ、初めてなまえと会話をしたのは入学式が終わった後のホームルームの時だ。
窓から吹き込む春風に飛ばされた俺のプリントを、隣の席の彼女がキャッチしてくれたのがきっかけだった。
1年生の1学期。
気がついたら出来上がっていた男女6人グループの中で、毎日一緒に話をした。毎日一緒に笑った。
そして高校生活最初の夏が訪れる前、なまえに告白された。だけど、断った。
あの時はなまえを友達としてしか見れていなかったから。
けれどどうやら人間っていうのは、自分のことを好きになってくれる人を好きになる生き物らしい。告白を断った後、なまえの俺に対する態度や笑顔に特別な意味を探し始めて、気がついたら、彼女のことを好きになってしまった自分がいた。
なまえの告白失敗から2年。
3年生になっても続いている男女6人のグループの中で、俺はずっとなまえを見ていた。あんなことがあったのに、入学式の日からずっと変わらない彼女の笑顔に、まだ俺のことを好きで居続けてくれてるんじゃないかと、心のどこかでそう思っていた。他の男子からの告白を断っているのも、心に決めた人がいるからなんじゃないかと、そしてそれはきっと俺なのではないかと、そう思っていた。
6月のインハイ予選が終わって、なまえがバレー部のマネージャーを引退したら、告白しよう。
勝手に立てた自分の誓いに酔っていた。きっと喜んでくれるぞ。2年越しの両片想いが実るんだ、なんて、自分の誓いに酔っていた。
けれど思い通りにならなかった。