第39章 タイムマシンがあったなら、(二口堅治)
思い通りにならないのが人生だ、なんて
そんなこと言われて、だから人生は面白い、と開き直れるほど俺は大人じゃない。
「ごめん、」
面と向かって言われたとき、鉄の玉を飲み込んだみたいに、胃の底をひんやりとしたものに押し広げられる感覚がした。息が詰まる。
「……もう、そういうんじゃないから」
そう言ったなまえの顔が苦しそうに歪んだから「そ、そうだよな、だってもう2年も経ったんだから、当たり前だよな」なんて、無理に言葉を押し出した。昨日の夜、何度も頭の中で繰り返したのとは全く違う展開。だけどここで食い下がっても、多分なまえの返事は変わらない。嫌に物分かりのいい自分に吐き気がした。
「本当、ごめんね」
「いいっていいって。自分でも、今更遅すぎるってわかってたし」
「でも、」
「気にすんなよ。俺だって似たようなこと言って振ったんだしさ」
「…………」
いつもより多く水分を含んだなまえの目を見てしまって「あぁ、俺ってかっこわりーなー!」と大きな声を出した。ついでに頭もワシャワシャと掻き回す。
「なまえ、他に好きな奴がいるの?」
「………」
「別にいいよ。こんな男なんかじゃなく、もっといい奴と付き合えって言ったの、俺だし」
「……うん」
その返事じゃ何の意味だかわからない。だけど、追求するのもみっともない気がして口を閉じてしまった。本当はすごく知りたかったのだけれど。
潤んだ瞳で、でも決意の揺るがないようななまえの表情を見て、今すぐタイムマシンに乗り込んで、5分前の自分を殴りたいと思った。いや、戻るとしたら2年前か。
(タイムマシンがあったら、2年前の自分を殴りに行くのにな。)
(逃した魚は大きいぞ、って、言いに行くのに。)
あのさ、とぼんやりと滲む彼女の声を聞きながら、今日の夜は誰に電話して慰めてもらおうかな、なんて、回らない頭で考えていた。
「これからも仲良くしてね。今まで通り」
(あぁ、この台詞、聞き覚えがあるなぁ。)
「気まずくなるのは、嫌だから」
(2年前、俺も似たようなことを言ったんだっけ。)
言われたほうは、こんな気持ちになるなんて。あの時はちっとも知らなかったよ。ごめん、2年前のなまえ。