第5章 錠と自由(西谷夕)
「なまえ!」本日の授業を全て終え、廊下へと出たなまえを、西谷が呼び止めた。
「さっき、ありがとうな!助かったぜ」
「あぁ、いいよいいよ」なまえは手を縦に振った。「夕は今日も朝練だったんだろ。お疲れさん」
なまえは西谷よりも背が高く、いつも姿勢がいい。男勝りでさっぱりした性格なので、異性から見た西谷でも話しかけやすいし、かっこいい、と感じている。
「夕はほんとにバレーが好きなんだな」
なまえは廊下の窓の縁に寄りかかった。同じように隣に寄りかかり、「おう!」と返事をする。
「...ところで、なまえはなんの部活だっけ?」
「あたし?部活動は入ってないよ」
「まじか!てっきり運動部だと思ってた」
「あー、そうなのよ」
なまえはバツが悪そうに頬を掻いた。「小さい頃から習い事通ってて、それをずっとやってるから」
「習い事?」
「そう。ストリートダンスを少々」
「ストリートダンス!」
西谷はおうむ返しをした。「...ってだぼだぼの服着て、キャップかぶって、YO!ってやるやつか?」
「それってヒップホップのこと?まぁ、それもストリートダンスのジャンルの1つだけど、」なまえはぐっ、と窓の縁を押して姿勢を正した。「私の得意なジャンルはロックダンスよ!」
えっへん、となまえは誇らしげに腰に手を当てた。その姿が眩しくて、西谷は「おぉ...」と目を細めた。
しかし聞きなれない単語である。いまいちピンとこなかった。
「そのロックダンスってやつ、見たことないけど、バンドの演奏に合わせて踊るのか?」
首を傾げる西谷を見て、なまえは噴き出した。
「ロックンロールのロックとは違うよ。音楽のほうはR-O-C-K。私がおどるのはL-O-C-K」なまえはにやりと笑った。「錠(じょう)って意味だよ。踊りの途中でいきなりカチッと動きを止めるんだ。鍵をかけるみたいに身体が止まるから、ロック。」
「おぉ、かっけー!」単純な西谷はすぐに飛び付いた。「じゃあちょっと踊ってみろ!」
「へ!?」なまえが目を丸くした。「無理無理、恥ずかしいよ! 音楽もないし。スカートだし」
両手の平をこちらに向けて、赤くなった顔を横に振った。まるで女子のような仕草だ。