第38章 勇気一つを友にして(日向翔陽)
「先輩、俺の誕生日いつかわかります?」
「わかっ……らない。ごめん。いつ?」
「6月21日!!」
頭がようやく会話に追いついた時には、既に話題が流れ去った後だった。しょうがない。さっきの言葉は聞かなかったことにしよう。
動揺を悟られないように「へ、へえ!そうなんだ!」と無理矢理テンションを上げて喋った。「過ぎちゃったんだね!来年お祝いしなきゃね!!」と。
「俺、1年の中では一番誕生日早いんですよ!!影山よりも、山口よりも、月島よりも、年上なんです!」
「うわー、まじかー!ぜんっぜん見えない!!マジかー」
「見えないってヒドいですよ!でも、今は1年の中では俺だけ16歳です!他はみんな15歳!」
「15歳!!」
その数字に思わず目を見張った。「月島が15歳とか……マジで見えない」
「えっ!俺は?」
「日向は見えるよ!むしろ中学生に」
「え~……そんなぁ~……」
先輩ったら、ヒドいなァ
呆れたように呟く声が、いつもと全く違って聞こえた。月島みたいに色気のある低音に鼓膜を揺さぶられて、日向の方を見てしまった。
「先輩、俺のこと、もしかして弟みたい、って思ってます?」
そう言った彼の目が、夕陽に照らされて真っ赤に燃えていた。
たまに強い選手に放つような、威圧感のある、あの視線。
真っ直ぐで、純粋で、まぶしすぎて、目が焼けてしまいそうなほどの視線。
見続けることが耐えられなくて、思わず顔を背けた。
辺りが暗くなるに連れて、蝉の声がだんだん小さくなっていく。
1匹、また1匹
「弟みたいっていうか……年下だからね、日向は」
やっとのことでそう言った。理性がなんとか踏みとどまった。
だけど、年下じゃないですよ、と甘い声が飛んでくる。
「先輩、前に冬生まれだって言ってましたよね?」
ぐっと身体が近づいた。身長差はさほどないはずなのに、いつもよりずっと大きく見える。
ジッ、と音を立てて、最後の蝉の声が止まった。