第38章 勇気一つを友にして(日向翔陽)
「……鳴きやんだ」
ゆっくりと目を開けた日向が、小さな声で囁いた。「あんなにうるさかったのに」
「うん。最近気付いんだけど、コイツら鳴く時間が決まってるみたいなんだよ」
「蝉って時間がわかるんですか?」
「気温で判断してるのかもね。すごいよね、誰かに教わらなくても一斉に鳴きやむの」
「へえ……」
神妙な顔で木に両手を当てた彼は、背伸びをして頭上の枝の根本に目を凝らしている。蝉を探しているんだろうなぁ、と思って「蝉ってさ、」とまた小声で話しかけた。「他の仲間の声に反応して鳴くんだって」
「うおおおぉおおぉぉぉぉぉお!!!!!!」
「!?」
突然叫びだした日向が、木の幹を大きく揺さぶった。途端に、驚いた蝉たちがまた鳴き出す。それに反応して、周りの木々からも一斉に応答が返ってきた。
「すっげー!!!」
再び降り注ぐ鳴き声のシャワーに、何がすごいのか、日向は目を輝かせて両手を広げて喜んでいる。
「びっくりさせないでよ!!」
「あはは!すみませーん!!」
「日向に静かにしろって言った私がバカだったのかなぁ」
オレンジ色の髪の毛を見ながら呟くと、日向はぴょん、と飛び跳ねて駆け出した。
なまえ先輩!!と元気な声が飛んでくる。
「体育館、戻りましょ!休憩終わっちゃいますよ!!!」
その満面の笑顔に、釣られて自分も笑ってしまう。相変わらず、日向の元気は感染力が強い。
日向翔陽は、太陽みたいな子だ。
真っ直ぐで、純粋で、いつも笑顔がまぶしくて、
一緒にいるだけで元気をもらえる。
隣にいすぎると、直射日光を浴びたみたいに疲れてしまう時もあるけど、
側にいない時は、物足りなさを感じてしまうくらい、バレー部の中の日向の存在は大きい。
みんな、太陽が大好きだ。
みんなを元気にしてくれる。
みんなを笑顔にしてくれる。
だけど、太陽に近づき過ぎてはいけない。