第37章 天然フェニルエチルアミン(花巻貴大)
その日の夜
「どうしようかなぁ……」
私はまだ悩んでいた。今度は進路のことじゃない。貴大との関係で悩んでいた。
私達はめんどくさがりだ。それが尾をひいてずるずるここまできてしまった。今さら別れようだなんて気はさらさら起きないし、多分私たちは別れたら一生独り身なんじゃないかと思うくらい、恋愛をすることを億劫に感じている。
もしも、別れる時が来るとしたら。
クッションに顔を埋めて考える。
もしも別れる時が来るとしたら、それはどちらかがこの世を去るときなんじゃないか。そんなことを言われても納得してしまうくらい、私たちは長い大縄のような運命をずるずるずると共に引きずっている。
だけど、いつまでこの関係は続くのだろう。
私達はお互いよりも部活や友達を優先してきた。毎日飽きるくらい学校で顔を合わせるのだからメッセージなんてわざわざ送らないし、ましてや寝る前の甘い電話なんてしたこともない。
そんな重くない関係をずっと心地よいと思ってきた。でも、私達を繋ぎ止める鎖は青空に浮かぶシャボン玉の如くふわふわと軽いのだから、その分きっとあっけなく壊れてしまうだろう。
別々の大学に行ったら、私達はどうなっちゃうのかな。
アイツは私との未来のことを、ちゃんと考えているのかな。
お腹と胸の間に、もやもやとした黒い塊がうごめき始めた。
一度だけ、貴大を試したことがある。
これも周りの友達に流されたことなのだけれど、『妊娠した』とアイツに嘘をついたことがある。そしたらアイツは、スマホを弄る手を止めずにこう言った。
『俺がそんなヘマするわけねぇだろ』
わからない。
進路を真剣に考えろと言う割りに、アイツは今後の身の振り方を真剣に考えているのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなる。
もやもやした気分は次第に苛々に変わっていった。あー、もう!と乱暴にクッションを壁に投げつけて、私は立ち上がった。
本人に直接聞きに行こう。
私はバカだから、頭を使うことは苦手なんだ。