第36章 みんなで共同生活!(烏野1年生ズ)
「はい、どうぞ」
「さんきゅ」
タオルを受け取った影山は顔をゴシゴシ拭いて、それから私がまだ寝間着姿でいることに、えっ、と声をあげた。
「朝飯、まだなのか?」
「あ、」
そうだった。また忘れてた。
「『あ、』じゃねーだろ。いっつも当番忘れやがって!」
「うるさいなぁ!今から作りますよ!!さっさと風呂行って来い!!」
叫ぶだけ叫んでキッチンへ急いだ。
あぁ、いっつも忘れちゃうんだよな。ご飯当番。洗濯や掃除は忘れないのに、なんでご飯だけ忘れちゃうんだろう、なんて愚痴を零しても朝食は完成しない。しょうがないので手っ取り早くできるいつものアレを作ることにした。
卵に牛乳、小麦粉、蜂蜜、ベーキングパウダー。そこに豆腐を入れるのはうちの伯母さん譲りの節約方法。冷めてもモチモチ、大量生産可能なパンケーキだ。
3口コンロに、2つフライパンを並べて同時に焼いていると、背高ノッポがやってきて水道の蛇口を捻った。
「あ、おはよ、月島」
「おはよう。なまえの絶叫が煩いから起きちゃったよ」
嘘つけ。その前から起きてるくせに、なんて言いたい気持ちを休日の朝に免じて我慢したのに、ごくりとコップの水を飲みこんだ月島はフライパンを覗きこんで「え、まだ作ってないの?嘘でしょ」とわざと癪に障る言い方をしてくる。気泡がフツフツと浮かび始めた生地にフライ返しを差し込んでひっくり返せば、十五夜のお月様みたいに真ん丸なパンケーキが顔を出した。
「ほら見て月島、綺麗に焼けてる」
「ホントだね」
珍しく素直に同意をした彼は、それでも呆れたような声で続ける。「でもなまえの周りは、お世辞にも綺麗とは言えない」
「確かにそうだけど言い方ってもんがあるでしょうよ」
出しっぱなしにしていた泡だて器をシンクに置いたり小麦粉を棚に戻したり。月島は無駄のない動作で私の後始末をしながら電気ケトルにスイッチを入れて小さな片手鍋を空いていたコンロに乗せた。首の後ろに手を回して、ふあぁ、と欠伸を1つした彼の目元に浮かぶ涙を見て、なんだか有難いものを見た気分になる。