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【ハイキュー!!】青春直下の恋模様【短編集】

第34章 時は過ぎゆきて(菅原孝支)前編


その夜



自分の部屋で勉強をしながら、あーぁ、と大きな溜息を吐いた。最近はずっとこうだ。部活に受験勉強だけでも大変なのに、厄介事が増えるなんて。

集中力が切れてしまって、コピーしてもらった寸劇の台本を眺めた。あの後冷静になって読み返してみたら、抱きしめるとかキスとか書いておきながらも内容は意外に真面目に考えられていて拍子抜けした。

良家との縁談が決まり、好きでもない人の元へ嫁がなければならない女の子と、そんな彼女に想いを寄せながらも許嫁との結婚を迫られている男の子。彼らは俺たちと同年代の設定だけれど、自由に恋愛することは認められずに両親の決めた相手と跡継ぎを残すという運命から逃げられない。気持ちを抑えきれない2人が、雨の日の夜に出会って……というお話。


生き辛い時代だったんだなぁ、なんて他人事のように考えてその台本をベッドの上に放った。あんまり視界に入ると勉強の邪魔だ。

よし、切り換え切り換え。


深呼吸を1つして、またノートに向き直る。


そのときふと目に止まった、消しゴム。



『クロスの法則って、聞いたことある?』

髪を耳にかけるなまえを思い出す。大きな口でにっこり笑う、満月のような笑顔。重なった右手。近づいた唇。

あぁ、やっぱり勉強に身が入らない。



「何事も円を描くように、かぁ……」
ぼんやりとそう呟いて、消しゴムを右手でふわりと持ち上げる。



……って、なに練習しようとしてんの!?馬鹿か俺!?


わー!わー!と反射的に思いっきり消しゴムをぶん投げた。閉じた窓にガン!と当たったそれは、勢いよく弾き返されて見事おでこに直撃。


「痛いってば!!!!」


自業自得なくせに両手で額を押さえながらキレた。「ここ俺の部屋!女っぽくしなくていいとこ!!!」と自分で自分に言い聞かせるように突っ込むと、孝支ー何騒いでんのー?と母親の声が階下から聞こえてきた。


「ごめん、なんでもない!!」


大声で返して、ぜえぜえと息を切らした。今日は叫んでばっかりだよ。もうほんとやだ。勘弁してくれ。






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