第34章 時は過ぎゆきて(菅原孝支)前編
「これでも不安?」
漏れる吐息に背筋がゾクゾクする。きゃあ、と楽しそうに上がった女子の悲鳴に我に返って、なまえの肩を目一杯押して叫んだ。
「ななな何すんだよ!?びっくりさせんなっ!」
わっ、わっ、とよろけて転びそうになったなまえを、ちょうど後ろにいた大地が支える。
「スガ、女子に乱暴はやめろ」
その厳しい声に、とたんに冷水を浴びせられたみたいに身体が冷えた。
やば、俺、びっくりしてなまえのこと突き飛ばしちゃった……
「菅原……」
潤んだ瞳をするなまえに、「わ、悪い!」と両手を合わせて謝ったら、彼女は震える指で自分の両腕を抱きしめて、ごめん、あのね、と囁くように言った。
「……本番テンション上がったら、マジでキスしてもいいかな?」
「駄目に決まってんだろ!!」
咄嗟に叫び返して、あぁ、この子がどこまでもマイペースな子でよかった、とその時だけは感謝した。