第34章 時は過ぎゆきて(菅原孝支)前編
「菅原、集中しなさい」
なまえに怒られ渋々前に向き直る。
俺、何も悪くないと思うんだけどなぁ。
話し合いの時もしやと思ったのだけれど、どうやらなまえはとてもマイペースな人間みたいだ。俺が拗ねてても気にすることはなく「さっきの続きだけど、」と強制的にレッスンを続行させてきた。
「直線的に手を動かすと男っぽく見えちゃうから、何事も円を描くように意識してみようか」
「はぁ……円、ね」
「物を渡す時も、上からふんわりと降ろしたほうが、女性らしく見える」
「上からふんわり、りょーかい」
ムキになるよりも、諦めて彼女に従ったほうが楽だと判断した。右手で消しゴムを掴んで、対角線上を放物線を描くように、彼女の右手の中へ収める。
「おっ、いいねー!センスあるぞ、菅原」
「だから、嬉しくないってば」
言い返しても聞いてはくれないようで「この法則はさ、どんな動きにも応用できるんだ」となまえが声を弾ませた。
「物を渡すときだけじゃなくて、手を握る時も……」
「ぅあ、ちょ、」
ぐい、と俺の右手が握られた。不意打ちのひんやりとした感触に心臓が跳ねる。
え、どういうこと?待って、タンマタンマ!
焦っていると「な?」と手が離れた。
「これだと勢いがあって、なんとなく男っぽいだろう?女性らしくするときは、クロスの法則と、円を描くことを意識して......」
こんな感じに、
ふわり。今度は彼女の右手が浮いて俺の右手に重なった。さっきよりもずっと優しくて、柔らかくて、まるで羽みたいにーーーーーー
パシャリ
「照れてる照れてる」
電子音のするほうを見れば、南条がスマホを構えていた。それを大地が覗き込んで「見事に真っ赤だなぁ」なんてのんびり言っている。
うっわ、コイツら……!!
「いい加減にしろよ!お前らどっか行け!」
「いやぁ、俺は文化祭実行委員なんで」
「俺はバレー部主将なんで」
「関係ないべ!?特に大地!」
「菅原!」
なまえが鋭い声を出した。「どうせ最終的には全校生徒に見られるんだ。いちいち照れてちゃだめだろう」
「知り合いに見られるのが一番照れるだろ!?」
ってゆーか、よく考えたら全校生徒なのか!日向とか、影山とか田中とか……っつーか旭もか!うわ!嫌だ!どうしようマジで嫌だ!