第34章 時は過ぎゆきて(菅原孝支)前編
「まず最初にさ、みんなでコンテストの概要を確認しようよ」
なまえはそう言うと、演劇部特有のよく通る声で手元のプリントを読み上げた。
「ルール。『各クラス男子生徒1名、女子生徒1名を代表に出し、それぞれ女装、男装をして2人で3分間のアピールタイムを行う。内容は自由』……ここまでは、いいかな?」
俺以外の全員が一斉に頷いた。それを確認して、なまえが続きを読む。
「『審査員は教師5名と全校生徒による投票。男女別の"美しさ"と、ペアごとの"ストーリー性"、"オリジナリティ"の4つの項目に10点満点で点数をつけて、一番高かった男子生徒にはミス烏野、女子生徒にはミスター烏野の称号が与えられる。場合によっては、審査員特別賞、お笑い賞、努力賞なども有り』……と、こういうわけだから、とりあえずまずは3分間のアピールタイムってやつで何をするか考えようよ」
「毎年多いのは、ダンスとか寸劇とかだよね」
「あとはマジックとかデュエットとか!」
「演劇部のなまえがいるんだし、お芝居でいいんじゃない?」
「つーかそれしかなくない?」
「私も、劇だとありがたいな」
なまえが笑ってこちらを見た。「菅原はそれでいい?」
「……俺、演技なんてしたことない」
「大丈夫だよ、私が教える」
「俺、声は男子だけど」
「大丈夫だよ、裏で女子がマイク使って喋ってくれるから。菅原はそれに合わせて動くだけでいい」
ね、と放送部の女子を見た。その子は頷いて、「演劇部と何度かナレーターで共演したことがあるから、そんな感じでイケると思うよ」と言った。
「私はピンマイクつけてやるよ。タイミング掴むのは難しそうだけど、そこは練習でなんとかする。菅原は、何か不満があるならすぐ言ってくれよ」
「俺は、女装なんてしたくn……」
そこまで言って口を閉じた。隣に座っていた大地の拳が、横腹に入れられる寸前で止まった。「続けてくれ」と笑顔を見せる大地に、「じゃあ次は衣装を決めよう!」となまえがまたプリントを眺めた。
「他のクラスと被らなくて、尚且つ用意しやすいもの。それから、審査項目にもあるストーリー性が出しやすいものがいいかな」