第34章 時は過ぎゆきて(菅原孝支)前編
【第3節 話し合いをしよう】
その日の昼休み、向かいの空き教室に来てくれとなまえに呼ばれた。コンテストに関わる人たちで顔合わせを兼ねてご飯を食べよう、と。言われるが否や逃げようとしたら大地に捕まった。引きずられるようにして連れて行かれて、なまえと2人がかりで椅子に縛り付けられた。
その教室に揃っていたのは俺や大地と同じく、まだ部活を引退していない文化部の女子がほとんどで、演出を考える吹奏楽部に、衣装や小道具を揃える美術部、音響指導の放送部に、当日メイクをしてくれるその他の女子達。
同じクラスなんだからと顔合わせも早々に済ませ、早速『何の衣装を着るか』という議題で話し合いに突入した。
だけど、
「ーーーでさ、私はやっぱり定番のウェディングドレスが似合うと思うんだ」
「でも他のクラスと被りまくるんじゃない?私は浴衣とウェディングドレスだけはやめたほうがいいと思うな」
「えー、菅原くんなら他と被っても競り勝てるでしょ!可愛いもん!」
「確かに可愛いもんね!ねぇ、スガは何着たい?」
「……別に、俺はなんでm「あっ!セーラー服とかどうかな!?」「えっ、良くないそれ!?」………」
きゃあきゃあと騒ぐ女子たちを前に、俺はかなり不貞腐れた顔をしていたと思う。
もうほんっとに意味がわからない。完全に俺のことおもちゃにしてるよこいつら。なんで女子って授業中に当てられてもぼそぼそとしか話さないのに、こういう話題になるととたんにイキイキしだすんだろう。何もこんなに煩くしなくてもいいんじゃねーの?っつーか、そもそも俺は出るなんて一言も言ってねーのに!
むくれている間にも話題はあっちにいったりこっちにいったり。二転三転して結局振り出しへと舞い戻る。さっきから全然進んでいない。会議は踊る、されど進まず、だ。これじゃあどれだけ時間があっても足りないのではないかと隣の大地を見れば、言いたいことはわかるぞ、なんて意味ありげな目線だけが返ってきた。
「ちょっと、いいかな」
姦しい中で手を挙げたのはなまえだった。指先を揃え真っ直ぐ天に向ける彼女に、女子たちの声がぴたりと止まる。