第4章 HONEY BEAT(及川徹)
今日もなまえは、昼食を食べ終えたあと、小説のページをめくっていた。
「あっ及川くんだ」
ふいにクラスの誰かが声をあげた。それを合図に教室が色めき立つ。
見ると、同じ学年でアイドル的存在の及川徹が廊下から教室を覗き込んでいた。彼の周りにあっという間に人だかりができる。
「及川くん!昨日の練習試合、体育館で見てたよ!」
「すっごくかっこよかった!」
女子が口々に話しかける。
「えー、ほんとに?」及川は目を細めて答える。「嬉しいなぁ。見に来てくれて、ありがとね」
その笑顔にまた一層歓声があがる。
...やかましいなぁ。
なまえは頬杖をついて騒音の発生源を見た。及川は背が高いから、女子に囲まれていても頭1つ2つ分飛び抜けている。遠くからでもそのご尊顔が拝見できた。
入学直後から、女子の間で密やかに囁かれるほどの存在であったが、2年の秋頃、彼がバレー部の主将を継いだあたりから、爆発的に取り巻きの数が増えたようだ。
「バレーほんとに上手なのね!」
女子たちは飽きもせずに大王様を褒め称える。
「格好いいし、運動もできるし、及川くんって天才だね!」
及川の笑顔は変わらない。
「そんなことないよ!俺より強い選手はいくらでもいるんだからさ」
ふいに及川と視線がぶつかった。普通の女子ならこれだけで卒倒ものだが、なまえにとっては別に嬉しくもなんともない。視線を逸らして、手元の本のページをめくった。