第4章 HONEY BEAT(及川徹)
なまえは昔から、読書が好きだった。
小学生の時は、休み時間がくる度に本を読み耽っていた。学校全体が児童に読書習慣を身に付けさせようと取り組んでいたから、その頃は割と本を読む子は多かったと思う。
中学へ進学すると、周囲の友達が急に垢抜け始めた。休み時間にすることといえば、お洒落の話か、誰かの悪口。
仲良しグループの子たちは読書なんて興味がないらしく、鞄に入れた小説の表紙を見られようものなら「真面目ちゃんだねぇ」とからかわれた。
一人で絵を描いたり、本を読んだりしている子も確かにいた。少し羨ましかったけれど、その子たちは なまえの目には周囲から孤立しているように映り、可哀想とすら思っていた。
あの子は嫌われてる、と思われたくない。
あの子は一人なんだ、と同情されたくない。
だから読書は家の中だけにして、学校では無理に友達の話に合わせて過ごした。
頻繁に入れ替わるアイドル、うすっぺらい音楽、同じような見分けのつかないメイク。
それがなまえの中学3年間だ。
とてもとても、息苦しかった。
そんな人間関係とおさらばしたくて、高校は自宅から少し離れた私立の青葉城西高校を選んだ。なぜわざわざ遠いところに、と友達に聞かれたが、イケメンが多いから、と適当に返しておいた。
高校生活は快適だった。
中学の頃に身につけた処世術で、新学期からすぐに溶け込むことができたし、なによりここでは、 "一人でいる = 孤立している" という公式は成り立たなかった。
周りが大人になったのか、性格の良い生徒が多いのか、はたまた学校生活が忙しすぎるからか。いずれにせよなまえにとってこれは衝撃の事実だった。どんなに仲の良い友達がいても、別に四六時中一緒にいる必要はないのだ。
誰かと話したいときは適当に側にいる人と盛り上がり、一人でいたいときはみんなでそっとしておく。
本を読んでも馬鹿にしてくる人は誰もいない。むしろ「それ、面白いの?」と話しかけてくれる。
とても嬉しかった。やっと自由になれた気がした。