第31章 己に如かざるものを(月島蛍)
なまえに強引に連れて来られた先は大きめの雑貨店。
「誕プレあげたい男子がいてさ。キミのセンスが必要なんだ」
「あぁ、なんだ。そういうこと」
「そういうこと!」
「違うくて、そういう意味で言ったんじゃなくてさ」
「?」
なまえにもそういう相手がいるのか。そういう意味で呟いたのだけど、きっと彼女には理解できないだろう。
季節柄、明るい色の商品が多い。ごちゃつく店内をすり抜けながら、「どういうのがいいかな?同い年なんだけど」となまえが尋ねた。
「部活は?」
「サッカー」
「へーぇ、」
バレーじゃないのが救いだった。気のない振りをしてカマをかける。「やっぱり相手との関係によるんじゃないの」
「関係?うーん……彼氏かな。一応」
一応、なんて言葉に苛立ちを覚えた。僕は何を期待してたんだろう。馬鹿馬鹿しい。
「彼氏ならさ、尚更自分で選べばいいんじゃない?彼女と知らない男が選んだプレゼントなんてもらっても嬉しくないよ」
「そんなもん?」
「なんでわかんないの?デリカシー無いの?」
「そこまで言わなくっても」
なまえはムッとした顔で言った。「わかんないよ。女の子慣れしてるツッキーは別かもしれないけどさ」
「あのさぁ……!」
言いかけて、口を閉じた。なに熱くなってるんだ。馬鹿馬鹿しい。
「何がいいかな?コレとか?」
彼女が指さしたのはファンシーなコップ。
「ダメ。全ッ然ダメ」
「どうして?」
「高校生にもなって、そんなの家で使ったら家族にからかわれるデショ」
運動部ならさ、と隣の棚の商品を掴んだ。「こういう断熱性の水筒なんかいいんじゃない?これから暑くなるし、氷も溶けないし」
「あ、そういうパターンね!なるほど!」
感心したようになまえが手を打った。「流石ツッキー。男心をわかってるね」
「むしろ僕が欲しいだけなんだけどね」
「何色がいいかな?」
「そこはキミが決めなよ」
「えー……青、かなぁ?ツッキーは何色が欲しい?」
「緑」
本当は自分も青色が良いと思った。けど顔も知らぬ男の手に渡ると思うと癪だった。
「じゃあ緑にしよっと!お会計してくるね!」
そう言ってレジに向かっていく彼女を見て、帰りたい、と思った。けれどこの後はケーキバイキング。帰りたいけど、帰りたくない。