第31章 己に如かざるものを(月島蛍)
近所の書店で、女の子が直立不動になっていた。
長い黒髪を真っ直ぐ背中に垂らして、大きな瞳で食い入るように本棚を見つめている。
その子の容姿がとびきり優れていたとしても、だ。普段の月島なら気にも留めずに通り過ぎていただろう。けれどその子の目線の先にあるのが目当てにしていた雑誌だったから話は別だった。同い年くらいのその子の隣に立って、退くのを待つ。
“月刊バリボー”
兄が就職のため実家を離れてから、半ば義務のように毎月買っている雑誌。
その表紙を真剣に見つめて動く気配の無い女子。
これに興味を示しているということは、女子バレー部かはたまた男子バレー部のマネージャーか。でもそんなことは自分にとってどうでもいい。
買うなら買う、買わないなら買わないで早く退いてくれないかな。
痺れを切らして、雑誌に左手を伸ばす。
指先が表紙に触れるより先に、同じタイミングで彼女が手を伸ばした。